【映画評】「PSYCHO-PASS サイコパス Sinners of the System Case.2 First Guardian」

映画「PSYCHO-PASS サイコパス Sinners of the System Case.2 First Guardian」における風刺的側面についての一考察

はじめに

まず、この「PSYCHO-PASS サイコパス Sinners of the System」3部作の2作目についてだが、1作目についても同様のテーマで記事を書いているので、1作目についてはそちらを参照されたい。

theyakutatas.hatenablog.com

また、あらすじについては適当にまとめるよりも公式のものを参照すべきだと思うので、以下に引用する。

常守朱が公安局刑事課一係に配属される前の2112年夏、沖縄。

国防軍第15統合任務部隊に所属する須郷徹平は、優秀なパイロットとして軍事作戦に参加していた。

三ヶ月後、無人武装ドローンが東京・国防省を攻撃する事件が発生する。

事件調査のため、国防軍基地を訪れた刑事課一係執行官・征陸智己は、須郷とともに事件の真相にせまる。

STORY|PSYCHO-PASS Sinners of the System

 
「沖縄」という地場

無人武装ドローンが国防省を襲撃する事件のきっかけとなったのは、沖縄の国防軍が出動した東南アジアでの軍事作戦(フットスタンプ作戦)だった。

その作戦に無人ドローンの遠隔操作という形で参加していた須郷は生き残ったが、地上軍として出動していた大友逸樹は行方不明となる。三ヶ月後の国防省襲撃では、行方不明と思われた大友逸樹がカメラ映像に映り込むことで事件は混迷を極めていく。

そもそもその基地とはかつての在日米軍基地であるキャンプ・シュワブ跡地にあるというから極めて示唆的だ。そこから東南アジアへの出兵というから、ベトナム戦争を想起せずにはいられない。さしあたり真偽の疑われる事実ではないので、Wikipediaから該当部分を引用しておきたい。

ベトナム戦争では、在日米軍の軍事基地、中でも特に沖縄の基地が重要な戦略・補給基地として用いられた。アメリカ空軍の戦略爆撃機が、まだアメリカ政府の施政下にあった沖縄の基地に配備された。1960年代、1,200個の核兵器が沖縄の嘉手納基地に貯蔵されていた。1970年には沖縄のアメリカ軍に対するコザ暴動が起こった。アメリカ軍は1972年(昭和47年)の沖縄返還までに全ての核兵器を沖縄から撤去した。

在日米軍 - Wikipedia

ベトナム戦争の軍による攻撃と言えば一般市民にまでその被害を及ぼした北爆が思い出されるところだろう。

もちろんそれより前に遡って太平洋戦争について考えてみてもいい。

〔前略〕日米衝突を回避するため、41年4月からおこなわれていた日米交渉がいきづまると、同年12月8日、日本軍はハワイのパールハーバー真珠湾)にある米海軍基地を攻撃する一方、マレー半島に軍を上陸させて、アメリカ・イギリスに宣戦し、太平洋戦争に突入した。

(『詳説世界史 改訂版』山川出版社、2018年)

この直前には、日本はABCD包囲網で石油の輸入ができなくなっていた。そこで日本は東南アジアに石油を求めて進出しようとしたが、そうなればハワイに駐屯する太平洋艦隊が出動する。それを先んじて抑えるために、東南アジアへの出兵と真珠湾攻撃を同時に行った、という解釈もある。

在日米軍

結局太平洋戦争には敗戦。その後、日本は米軍を主軸とするGHQの占領下に置かれた上、沖縄は米軍の施政下に置かれた。

沖縄が本土復帰した後も、在日米軍の特権的地位は日本国内で保障され続けた。「日米地位協定」である。

在日米軍軍人の犯罪が明らかになるたび、この日米地位協定が問題になる。なぜなら日米地位協定によって、米軍の犯罪は、アメリカの裁判権が先に適用されるということになる。言ってみれば、時代遅れの治外法権という感がある。

本作に在日米軍は登場しない。しかし、国防軍の人々は、大友逸樹が国防軍襲撃を行ったのであるとすれば、それは国防軍内で解決すべき問題であるはずだ、と言う。そこにあるのは、日米地位協定的な、安全保障上軍事組織に「法」が通用しないというアポリアだろう。

シリア内戦

ここまでは言わば前段である。この映画が本当に意識している出来事とは、シリア内戦に違いない。

米国は軍事行動の可能性を排除していない。昨年4月には、反政府勢力が制圧する北西部イドリブ県ハーン・シェイフンでシリア政府軍が神経剤サリンを使用し80人以上が死亡したとして、シリア空軍基地を空爆した。このサリン攻撃について、国連と化学兵器禁止機関(OPCW)はシリア政府によるものだと断定している。

シリアの化学兵器使用疑惑 安保理で米露が激しく衝突 - BBCニュース

シリア内戦は、独裁アサド政権側の政府軍と、それに対する反政府軍の間での争いだが、そこにイスラム国(IS)が参入したことで事態は泥沼化し、クルド人武装組織も参入したことで情勢の理解は容易ではない。

絶妙な三すくみが、政府軍と反政府軍の連帯とイスラム国の弱体化で崩れ、2018年4月7日には、シリア政府軍が化学兵器を使用した疑いが持たれた。化学兵器が使用された地域の住人の苦しむ姿が映し出された動画は、未だに記憶に新しいだろう。

実は、本作におけるフットスタンプ作戦の肝とは、上空から化学兵器を投下することだった。その任を背負ったのは須郷であり、そのことに気がついたために犯罪係数が大きく上がってしまう。

容赦ない化学兵器の使用。国防軍在日米軍を重ねて見るのなら、化学兵器を利用した(とされている)のはシリア政府軍であり、あるいはその背後にいるロシアであるから、この考察は誤りだと思うかもしれない。

しかし、実はそういう問題ではない。タイトルにある通り、これはcriminalの問題ではなく、sinnerの問題である。法律を違反した「犯罪者」ではなく、より広範な、法・倫理を破った悪としての「罪人」なのだ。

おわりに

端的に言えば、まず間違いなくシリア内戦の要素はこの映画に入っている。しかしそれより以前の在日米軍日米地位協定ベトナム戦争・太平洋戦争については、あまり自信がないので、誤解があったとしてもご容赦いただきたい。

この映画は「考えさせられる」映画だったと思う。平和を守るために戦うというジレンマ。例えばアニメ「機動戦士ガンダム00」で描かれたような問題について「考えさせられる」。

肝要なのは、「考えさせられた」読者・観客・視聴者が、では実際に何を「考える」のかだろう。

この記事が誰かの「考える」材料となれば幸いである。

 

wrriten by 虎太郎